夫婦、親子で楽しく生活していた生前が懐かしくなる…相続という話が出て、しかもまとまった相続財産がある家庭は、その分与の話が出始めるころから、どこかギスギスとした関係に代わってしまうという話があります。
まとまった額になりそうな相続財産があるらしい、そのうちどのくらいが自分の資産になるのか。評価総額がいくらくらいなものなのか。相続人がすべて把握をしているケースが、実は意外にすくないようです。
〇子供や配偶者が相続財産を知らない?
いずれは起こる、自分名義の財産。それを分与するべき時がくると、被相続人自身が自覚する期間があれば、自分の財産の所在を伝えておくべきだと考えるでしょう。
例えば、長らく病気を患っている、体調が思わしくないなど、その理由はいろいろあります。問題になるのは、ある日突然お別れしてしまう原因が起こり、相続財産のことを何も知らないまま…となることです。
●意外と知らない相続財産 税申告にも問題が
相続財産がどのくらいあるか。これは故人が生前にすべてを記録して、相続人全員に知らせておくのがベストです。遺言書を残すのが理想ですが、その際は、銀行の口座とキャッシュカードの暗証番号、収納している場所と預貯金額以外に、土地建物の全部とその権利証、生命保険証券の所在なども、もれなくまとめて置くようにしましょう。
もしこれらの記録がなければ、相続人はタンスや書棚、持ち物のあらゆる場所をひっくり返し、金融機関に問い合わせをするなど、必要な手続きや申請に時間を要します。
分与の話ですらすんなりまとまりそうでない状態のなかで、それが全てでは無いかもしれないという可能性があれば、さらに相続の話が難航します。相続税の申告期限に間に合わない事態にもなりかねません。
〇子供が一人の場合の相続と税金の申告は
一人っ子世帯も少なくない昨今、遺産を配偶者と一人の子供に託す場合は、相続人の立場からすると「当面の相続税をおさえたい」という思いから、配偶者控除を利用したくなるものです。
配偶者は最大で1億6千万円の控除を受けられるため、おおよそサラリーマン世帯は、配偶者に相続させることで節税を考えます。
●次の相続を想定してより節税を具体的にイメージする
一次相続で配偶者控除を活用した場合、大きな節税効果があると思われがちですが、その次の「親から子へ全部相続する」ことをイメージしてみましょう。
配偶者の相続分が大きくなれば、二次相続でそれをすべて子供が相続することになります。すると、配偶者控除がない子供は、相続課税を全うに受ける事となり、結果として一人の子供が多額の納税をせねばならなくなるのです。
一時相続の時点で(法定相続は配偶者と子供一人であれば折半ですが)、直近の節税を考えると、後に配偶者が受け取った相続財産を引き継ぐ一人の子供に、大きな負担がのしかかるケースが考えられます。
相続税をおさえて、子どもへの負担をへらすという二つの目的を叶えることを前提にして、相続税を現実的・具体的にシミュレーションするようにしましょう。
法改正が起こった都度、また相続財産の増加や処分があった場合に、税理士など専門家に相談して見通しを立てておくといいでしょう。
【著 者 長 岡 利 和】