かねてより、民法改正が行われるという話がありました。そしてついに、相続分野の見直しを進めていた審議会が、遺産分割時の住宅について一定の方向性を示した改正案を国会に提出するようです。
○二重課税じゃない?相続税を納めたあとの譲渡
預貯金や株券など、その価値を明確に金額で示すことができる相続財産は、分与価値が分かりやすいため、(相続時の親族間トラブルは別として)価値そのものが大きな問題になることはありません。しかし、土地や建物といった不動産は、相続事由が発生し、相続税の申告を行うときの時価で税額が変わります。
●不動産評価による相続税と譲渡益の所得税
相続によって不動産を得た相続人が相続税申告で税金を納めたのち、その不動産を売却した場合には売却益により所得が増加します。これだけ見れば、相続税と所得税の二重課税になるのでは?と思う人もいます。
法的な論点がからみそうな、素人にとっては非常に難しい問題です。例えば、相続税課税時その土地の価値がさほど高くなかったものの、売却(譲渡)するまえに地価の上昇があった場合が考えられます。
相続による不動産名義人の変更によって、その所有者が被相続人から相続人(夫から妻)に代わる点を考えると、相続実行時までの被相続人所有時には相続税、さらに変更登記が完了して、売却する場合の譲渡益は所得税対象になることは間違いないでしょう。
ただ、相続税の申告対象物に所得税はかかりません。所得税課税がこれまでになく、相続した不動産を売却すれば、相続税が新たに課税されることはなく、売却益分に対する所得税が発生すると考えましょう。
●死亡保険金の受け取り方と所得税
被相続人の死亡によって保険金を手にした相続人は、一括~10年ほどの受け取り期間を定めて、その保険金分納の受取額に応じた割合を乗じて相続税を納めます。
相続税の申告時に税金を納めているのに、どうしてさらに(年金取得による)所得税を払わなければいけないのか?これも二重課税の声が上がる課税問題として有名です。
〇今後は相続税納付の居住権が
今回の民法改正案は、相続税納付のために実家を売却して現金を準備しようとする相続人救済と、配偶者の住まいが奪われないための居住権が肝になるでしょう。相続事由が起こる前に、その相続財産の処置をお願いし、居住を確保し奪われないという目的や問題点を、敏感に察知して意識を持っておくことは大切です。
【著 者 長 岡 利 和】